今回は企業経営理論の一分野である「経営組織の形態と構造」に関する解説となります。
社会生活を営んでいく上で、誰しもが何らかの組織に関わっているはずです。
ましてや経営コンサルタントの国家資格である中小企業診断士を目指している方の中には、いかなる組織とも関わりを断っているという方はいないことでしょう(笑)
さて、この記事で確認していく組織というのは企業内における経営組織のことです。
多くの方にとって、最も長い期間にわたって属する、または関わることになるのが経営組織といえるのではないでしょうか。
そんな経営組織に対して不満を感じた経験をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。
でも、そんな経験がこの分野の理解を促してくれるということを、筆者はお約束いたします。
嫌な経験をお持ちの方は、その経験を糧に得意分野にしちゃいましょう!笑
組織構造を知る!~機能別組織ってどんな組織?~
まずは機能別組織です。
機能別組織は職能別組織とも呼ばれるように、職能単位に分かれた組織形態となります。
上記図1にあるように、生産部門、営業部門、人事部門etc.という単位で組織を構成することになります。
機能別組織のメリットとデメリットを知る!
それでは、機能別組織のメリットとデメリットについて確認していきましょう。
機能別組織のメリット①:高度な専門性の確保
機能別組織は分業制をとりますので、一つの職能に集中して取り組む体制が確保されます。
その結果、営業のスペシャリスト、研究開発のスペシャリストといった高度な専門性を有した人材の育成・確保に適しています。
ゼネラリストよりスペシャリストを育成・確保したいなら機能別組織です!
機能別組織のメリット②:経営トップの意思決定が全社的・大局的になる
権限が経営トップに集中する構造となっていますので、組織の統制を図りやすく、また情報がトップに集約されやすいです。
その結果、経営トップの意思決定は全社的かつ大局的なものとなりますので、ダイナミックな変革を起こすシチュエーションに向いているともいえます。
機能別組織のデメリット①:人事交流の停滞
機能別組織はその名の通り機能ごとに部門が構成されますから、他部門との交流が停滞する可能性があります。
他部門との交流が停滞してしまうと、部門を跨いだ横断的な対応が困難となりますし、組織内での情報共有も図りづらくなってしまいます。
機能別組織のデメリット②:マネジメント人材の育成困難
機能ごとに部門を構成していますから、各部門のリーダーはその職能のスペシャリストが担うことになります。
その結果、各職能に精通しているリーダーばかりとなってしまい、全社的な視点から意思決定を行うマネジメント人材が育たないという事態が生じてしまいます。
機能別組織のデメリット③:責任の所在が曖昧
経営トップが明確になってはいますが、責任の所在が曖昧になる懸念があります。
研究開発部門で製品開発を行い、生産部門が生産を担い、営業部門が受注獲得を図る、というケースにおいて、収益が発生していないケースを想像してみるとイメージしやすいですね。
製品開発時のニーズ把握が不十分だったのか、生産効率性が低くコストが高いのか、営業力が弱いのがネックなのか、の判断が困難なのです。
機能別組織のデメリット④:トップの意思決定に遅れが生じやすい
メリットの一つとして、経営トップの意思決定が大局的になることを挙げましたが、その一方で情報や資源が経営トップに集中することから、膨大な情報処理能力が求められることにもなります。
その結果、意思決定に遅れが生じるケースも起こり得るというわけです。
組織構造を知る!~事業部制組織ってどんな組織?~
続いては事業部制組織です。
こちらは事業部単位で組織を編制することになります。
上記図2にあるように、事業部ごとにそれぞれが独立して各職能部門を有するイメージです。
個別の商品やサービス、地域、お客さんの属性などを基準に事業部が編成されることになります。
なお、事業部制組織の独立制をさらに強めた組織形態はカンパニー制と呼ばれます。
事業部制組織のメリットとデメリットを知る!
それでは、事業部制組織のメリットとデメリットを確認していきましょう。
事業部制組織のメリット①:経営トップが戦略的意思決定に集中しやすい
事業部制組織では、各事業部に業務上の権限が付与されます。
その結果、業務上の意思決定は各事業部が行うこととなり、経営トップは経営上の戦略的意思決定に集中しやすい環境を構築できます。
事業部制組織のメリット②:迅速な意思決定と対応が可能
事業部に業務上の権限を付与することで、現場に近い者が意思決定の権限を持つことになります。
結果、現場で生じている問題への意思決定および対応が迅速化されることになります。
事業部制組織のメリット③:次世代経営者の育成環境が充実している
事業部制組織における事業部リーダーは、各職能を横断的に総括管理することが求められます。
事業部はいわば「ミニ組織」ともいえるわけです。
事業部制組織は、組織を総括的に管理する経営者人材の育成に適した構造といえます。
事業部制組織のデメリット①:コスト負担の増大
事業部ごとに生産、研究、営業等の各部門を有しますので、経営資源が重複することになります。
経営資源の重複はコスト面ではマイナス要素ですね。
結果、コスト負担の増大という問題が生じます。
事業部制組織のデメリット②:短絡的な成果を求めがちになる
事業部ごとに売上や収益を掌握できますので、他事業部との比較が容易です。
比較できるということは、優劣がつくということです。
他の事業部に負けたくないのは当然ですよね。
結果として、長期的な利益よりも短期的な数値上の成果を追いがちになってしまいます。
事業部制組織のデメリット③:セクショナリズムの発生
セクショナリズムとは、部門間での対立のことです。
他事業部との比較が可能であることから、競合関係に陥るリスクをはらんでいます。
適度な競争関係は有益となり得ますが、それが行き過ぎるとコンフリクトを生む要因となってしまいます。
組織構造を知る!~マトリックス組織ってどんな組織?~
最後に確認するのはマトリックス組織です。
マトリックス組織は上記図3にあるように格子型の形態で組織化されます。
定義されたカテゴリーをまたいで業務に携わることになりますので、人材資源の横断的な活用が可能となります。
また、マトリックス組織は「範囲の経済性」の実現を狙った組織形態です。
範囲の経済性とは、事業の多角化等により多様性が増すことで、経営資源を共有化して使用できるといった経済性の高まりのことをいいます。
人材という経営資源を事業間で共有していることからも、範囲の経済性を追求していることがわかると思います。
マトリックス組織のメリットとデメリットを知る!
マトリックス組織のメリットとデメリットも順番に見ていきましょう。
マトリックス組織のメリット①:人的資源の効率的活用
マトリックス組織は、範囲の経済性を追求した組織形態であることは先に触れました。
横断的な資源活用を可能にする組織形態となりますので、数少ない人材で事業活動を行ったり、有能な人材を複数のプロジェクトで活用したりといった、人的資源の効率的な活用が可能な組織形態です。
マトリックス組織のメリット②:情報処理の迅速化
横断的な組織形態となっており、人材交流の活発化が期待できます。
それによって情報の共有化が促進され、結果として情報処理の迅速化も期待できます。
マトリックス組織のデメリット①:組織内コンフリクトのリスク
横断的な組織形態であることから、一人の従業員に上司が複数存在するケースが起こり得ます。
いわゆるワンマンツーボスといわれる状態ですが、そのような状況下では上司により異なった命令が発せられることがあります。
そんな事態が頻発すると、組織内にコンフリクトが生じてしまうことは想像できますね。
「どっちの言うことを聞けばいいの!?」っていう状況が頻発するわけです。
マトリックス組織のデメリット②:責任の所在が不明確
横断的であるがゆえに、命令系統の錯綜が生じやすいのがマトリックス組織です。
結果として、責任の所在がよくわからないという状況に陥るリスクをはらんでいます。
マトリックス組織のデメリット③:管理者間での意見の対立
コミュニケーションが活発化するのは良いことですが、横断的であるが故に権限の範囲が不明瞭になりやすいです。
その結果、管理者同志の縄張り争いとでも言いますか、意見の対立が生じるリスクがあります。
まとめ
今回は経営組織の形態と構造のお話でした。
中小企業診断士試験受験生には、経営組織に所属しているorしていた経験をお持ちの方も多いでしょうから、割と取り組みやすい分野といえるでしょう。
また、それぞれのメリット・デメリットについても実感できる内容が多いように思います。
冒頭でも触れましたが、組織に所属していて納得のいかない経験をされた方は、自身の経験を一つの事例として捉え、この分野の理解促進にお役立てください。
きっと、ボーナス問題になりますよ(笑)